<Medical Dynamic Stretchingの実際③功罪> | 眠れぬ夜に思うこと(人と命の根源をたずねて)

<Medical Dynamic Stretchingの実際③功罪>

 

筋力強化が治療になるのか
ここまでMDSの効用と筋力強化の弊害について論じてきたが、脱力が肝心だ、などと言ってみたところで、なかなか理解が得られぬ相手も多いに違いない。多分、その急先鋒は同業者である整形外科医だ。実際、筋力強化を目的とした現行の運動療法でも、それなりの治療効果が認められるからだ。ここでは、何故、既存の運動療法が筋力強化を目的としていても症状を改善させてしまう場合があるのかについて論じてみる。

歩くことは健康に良いのか
外来で患者からよく受ける質問の一つに、「歩くことは身体に良いのか」がある。簡単な質問のようだが、実は、この問いかけにこそ、なぜ、筋力強化を目的とした運動であっても良くなる患者がいるのかという謎を解く鍵があるのだ。外来では、定年退職後、突如健康に目覚めてウォーキングを始めた高齢者が、ウォーキング開始後ほどなくして膝や腰が痛くなって受診してくるというケースが珍しくない。その一方、同じように、歩く習慣を始めてから膝痛や腰痛が治ってしまったというケースもある。どちらも確実に存在するので、ありきたりの医師ならば、先の質問に対し、歩くことは身体に良いのだけれど、歩きすぎは良くないという返事でお茶を濁すことになるだろう。

歩行に潜む二面性
そもそも、歩くという行為は自重を運搬する行為であり、体の各関節と筋肉にとっては負荷となる側面がある一方、関節の屈曲、伸展に伴うダイナミック・ストレッチとしての側面もある。つまり、年齢や体重など各々の個別的要因によって、どちらの作用が強く表にでるかで、体に良いかそうでないかが決まると考えられるのだ。例えば、年齢が比較的若く、歩くという行為がさほど負担にならない場合、歩行に含まれるダイナミック・ストレッチとしての影響が強く表れるので、体には良いといえるが、逆に高齢であったり、肥満があったりすれば、ストレッチとしての効果より、負荷としての影響が強く表れることになるので、健康を害する原因になるということだ。

筋力強化が奏功しているわけではない
即ち、筋力強化を目的とした運動療法であっても、そこにストレッチの効果や神経伝達機能の活性化につながる影響が含まれているから、症状の軽減をみることができるというだけの話であって、筋力強化によって症状が改善するわけではないのだ。とはいえ、こうした運動療法でも症例を選べば、それなりに良い治療成績をあげることができるので、目下、筋力強化が良いと信じられているに過ぎないのである。ゆえに、本当は筋肉にかかる負担を排し、最初から筋弛緩を得ることに徹した運動療法であるMDSを行う方が、治療として効率が良いのである。Medical Dynamic Stretching(MDS)と名付けた理由がそこにある。

MDSの功罪
MDSには将来の整形外科疾患を激減せしめる可能性があり、整形外科医と製薬会社、そして柔道整復師の利益を損ねることになるだろう。しかしながら、学会でかくのごとく論じようものなら、袋叩きにされるか、無視されるのがオチである。それは、カルト教団に教義の間違いを指摘するようなものだからだ。王様は裸だと指摘するのは厄介な仕事なのである。よって、まずは整形外科医の治療に失望し、本当の治療を求めている気の毒な人々のもとに本稿が届くことを祈るのみだ。